最近はなにかと忙しく、ブログの更新もなかなかできませんでした。
これまでに鯛ラバに関してや、当院の物療機器に関してのコメントを記載させていただいたことがあったのですが、本日より時々ではありますが、何度かのシリーズで各部位の疾患に関して具体的に説明し、一般的な当院での治療方針を説明していきたいと思います。
本日第1回目は、「肩」です。
上肢の症状の中でも比較的肩は症状を訴えられる方の比率が多い部位であると思います。 一言で肩が痛いと言ってもいろいろな原因が考えられますので、特に頻度の多い疾患に関してそれぞれ説明させていただきます。
① 四十肩、五十肩
四十肩、五十肩という病名は皆さん一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 この病気は一般には肩関節周囲炎といいますが、その病態から凍結肩(Frozen shoulder)と呼ばれることもあります。
症状としては「肩が痛い」「夜痛みが強く寝返りがうちにくい、目が覚める」「肩があがらない(前にも後ろにも)ので服の脱ぎ着がつらい」などが挙げられます。 程度の軽い方の場合は160度ぐらいまで挙上可能(小学校で手を挙げるぐらいの角度)ですが、ある程度進行した方の場合は90度まで挙げることも困難な事があります。 肩甲骨が多少は代償性に動くため見かけ上は結構挙がっているような人でもしっかり肩関節のみで動かしてみるとかなり制限されている事が多いです。 念のためにレントゲン検査は行いますが、特に異常は認めないことが多いと思います。
原因は明らかではありませんが、軽微な外傷などに伴う肩関節周辺組織の炎症とそれに引き続いて生じる拘縮ではないかと考えられています。
そのため、一つの特徴として肩関節の可動域制限は自動運動だけでなく他動運動でも同じく認められます。
肩がいたくて挙がらない、人に手伝ってもらっても挙がらない、夜間痛がある、等の場合は最も疑わしい病態ではないでしょうか。
治療としては、炎症を抑えて症状を軽減させる治療と動きにくくなった肩関節の動きを回復させる治療を並行して行います。 関節の炎症は、関節内注射、内服薬、湿布薬などで落ち着かせます。 なかなか注射は怖いかもしれませんが、痛みはかなり軽減されると思います。
関節の動きを回復させるにはストレッチなどの体操が必要となります。 しかし、これは力任せに動かせば良いというものではありません。 あまり無茶をすると腱板という肩を動かすための腱を損傷してしまう可能性があります。 きちんとした運動方法を理解・練習していただき、それを毎日自宅で実践していただくことで確実に症状は改善していくのではないかと思います。
② 石灰沈着性腱板炎
四十肩、五十肩がゆっくりと進行していくのに対し、この石灰沈着性腱板炎は急激に発症することが多いです。 「昨日まで何ともなかったのに朝起きたら激痛が・・・」という方に多く見られます。 これも原因ははっきりしませんが、腱板組織内に石灰化が生じる事より腱板組織への機械的刺激が原因ではないかと推察されます。 特徴としてはレントゲン検査にて腱板の大結節付着部位付近に石灰化像を認めます。
治療は、激痛で来院される方が多いことから関節内注射を選択する事が多いかと思います。 もちろん内服薬でも治療は可能ですが、圧倒的に注射の方が楽になるのが早いのではないかと思われます。 病気の本態は拘縮ではないのですが、痛みのために関節がしばらく動かせない状態にあるので引き続いて拘縮が発生する可能性もあり、徐々に可動域訓練も行っていきます。
③ 腱板損傷
肩関節が動く(肩が動く)ためには当然筋肉の作用があります。 肩を動かす主な筋肉は腱板(肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋よりなる筋腱集合体)と三角筋です。 特に腱板は骨頭を関節窩に引き寄せ三角筋の効率を高めながらスムーズに肩を挙げるのに作用しています。 ただ、その腱板の中でも棘上筋は解剖学的に上腕骨と肩峰という骨に挟まれているため損傷されることが多いと思われます。
損傷の原因はほとんどが転落などの外傷です。 肩から転落(転倒)することで腱板が上腕骨と肩峰との間で損傷され、受傷後より痛くて肩が挙がらないという症状が出現します。 この場合は安静と内服、注射などの消炎鎮痛処置で治療を行うことで数週間で改善します。 ただし、損傷の度合いが大きい場合は保存治療では挙上困難が改善しないため、腱板縫合という手術治療が必要となるケースがあります。 また、一度症状が治まったケースでも負荷のかかる仕事などで度重なるダメージが腱板に加えられた場合、徐々に腱板の損傷が広がっていき、最終的には手術が必要なレベルまで傷めてしまうという事もあります。
一度手術が必要なレベルまで損傷してしまうとなかなか元の動きを獲得するのは難しいですから、正確な診断と適切な治療が必要であると思います。 安静治療を行っていると通常肩関節は固まってくる(拘縮する)ため、他動運動による拘縮予防の指導も適宜行っていきます。
この3疾患以外にもたくさんの病態がありますが、特にこの3疾患が肩においては多数を占めるのではないかと思います。
そして、どの疾患に関しても運動療法が非常に重要であるということが言えると思います。 肩の場合は上手に他動運動(自分の筋力を使わずに行う運動)を行う必要があります。 腱板が損傷しているケースでは腱板機能が低下しており、その際に自動運動を行うと上手に骨頭が回転しにくいために三角筋の力が上腕骨を肩峰に押しつける方向に働いてしまい、結果としてさらに腱板を傷めるという悪循環に陥ってしまう可能性があります(図B)。
来院していただいたときは当院でリハビリを行っていただくのですが、自宅でもしっかりリハビリを行っていただく必要性がありますので、必要な方にはきちんとした他動運動のやり方を覚えていただきます。
ご希望の方は遠慮なく診察時に相談して下さい。